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切削加工における安全性の確保
労働災害を発生させないことが生産加工の前提条件である。工作機械の装置化と自動化で、切削加工の安全性は著しく向上した。その一方で、切削加工の災害がどんなに恐ろしいものかということの認識が薄れてきたのも事実である。労働安全や労働衛生に関する問合せは激減しているが、労働災害に対する警鐘として、人身事故につながりやすいトラブル事例を取り上げた。
工作機械はNC旋盤が中心だが、治具製作などでオープンの汎用旋盤も使用する。切り屑が飛散するので危険な面もある。旋盤加工で安全性を確保するための基本原則は?
基本原則といってもいろいろある。一言ではいいあらわせない。
第1に保護具の徹底。一般的な保護具に安全靴、保護眼鏡、作業帽、手袋がある。それに季節に関係なく長袖の作業衣を着用すること。工作機械のカバーの有無や切り屑の飛散状態によっては、飛んで来た切り屑が、襟首から背中や腹部に入り込まないように、作業衣の第一ボタンを必ずしめることも重要。
第2に、作業スペースの確保と機械回りの整理整頓並びに清掃。切削加工は,回転運動を利用する機械加工なので、切り屑の飛散ばかりでなく、長く伸びた切り屑がチャックや被加工物に絡み付いて高速で回ることもある。最悪なケースでは、被加工物や切削工具がチャックや刃物台から外れて飛ぶこともある。予期しないトラブルが起こっても、安全な位置に素早く身をかわせるように作業環境を整えておく。作動油や切削油剤で床が滑りやすくなっていると、転倒することもあるし、咄嗟に身をかわすのも困難になる。
本事例は、オープンの汎用旋盤に関するものであるが、汎用のフライス盤やNCフライス盤でも同じである。また、堅牢なカバーに覆われているNC旋盤やマシニングセンターにも妥当する。カバーがあるから安全と考えるべきではない。
カバーの安全性を過信してはいけないということか?
その通り。例えば、ワークピースがチャックやバイスから外れて飛ぶケースを考えると、普通のアクリルカバーでは防ぎきれない。生産現場で保護眼鏡や作業帽を着用しない傾向があるが、原点に立ち返って見直すべきだ。
切り屑に関する人的トラブルとしてどんなものがあるか。
最も危険なのは目に入ること。切削点から飛んでくる切り屑は高温なので特に危険。日常、露出している手の皮膚などに触れても水ぶくれが発生するほどの火傷を負うし、切り屑で人体が焼け焦げる臭いがすることもある。高温の切り屑が目に入って眼球に触れたら、後遺症が残る大きな災害に発展しかねない。ターニング加工でもミーリング加工でも、切り屑の飛散方向に規則性があり、危険な方向や位置が分かる。オープンの工作機械では切り屑が多く飛散してくるところには立たないようにする。
鋳鉄などの粉塵状の切り屑が、髪の毛や衣服に付着したまま帰宅し、入浴や洗髪時に目に入ることもある。その場合には、専門医に金属屑が入ったことを説明し洗眼と異物の除去を行なってもらう。災害に発展するのは、微細で鋭利な切り屑が眼球に刺さった状態で時間が経過し、錆を伴なって炎症を起こすケースである。ウィークエンドに起こったトラブルに気付かずに帰宅し、土日に目が赤く腫れ上がり、月曜日まで我慢するというケースは最悪である。
切り屑で手を切るということもあるが、防止策は?
旋盤加工で、長く伸びた切り屑の端を引っ張ることは絶対にしない。引っ張ると切れそうだが簡単には切れない。切り屑の根元がチャックやワークピースに絡み付くと切り屑が瞬時に持って行かれる。素手で持つのが一番危険だが手袋を着用していても危い。先端がかぎになっている太目の針金で、切り屑を引っ張ることもあるが、これも決して安全ではない。
切り屑が長く伸びたら絶対に触らないこと。切り屑が主軸や被加工物に絡み付き、切削の継続が不能になったら、主軸を停止させて切り屑の処理をする。また、切り屑の一部を採取するため、手で長い切り屑を曲げて折断することも危険。切り屑は鋭利な刃物と同じ。必ず、ニッパーなどの手工具を使用すること。