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超硬ろう付式ドリルの切れ刃摩滅と火災の危険性
超硬ろう付式ドリルと不水溶性切削油剤を使用した穴加工では、切れ刃が摩滅すると火災の危険性が高まる。ドリル切れ刃が異常欠損などを引き起こすと、切削熱が著しく上昇する。切れ刃が高温になると、超硬合金を鋼材シャンクにろう付けしているろう層の軟化や溶融が生じ、ドリル切れ刃部が摩滅した状態になる。切れ刃が摩滅した後も、主軸が回転してテーブルが送られると、被加工物とドリルシャンクは圧接状態で発熱し火災が発生する。切削油剤が不水溶性であれば機内にある切り屑や工作機械本体への延焼も容易に起こる。
硬さ32HRCの調質した合金鋼SCM440に、直径25mmのドリルで、穴深さ75mm(L/D=3)の貫通穴のドリル加工を行なっている。切削加工が順調でトラブルも生じないことから、夜間や休日の無人加工を実施したい。予測されるトラブルで最悪なケースは?
ドリルの工具材種と切削条件は?
切削工具は、超硬合金M30にPVD法でTiNをコーティングした超硬ろう付式ドリル。切れ刃稜は-25°×0.20mmの強化型チャンファーホーニングが施されている。切削条件は切削速度vc=32m/min、送りf=0.15mm/rev。
切削油剤は? 切り屑の巻き付きはないか?
切削油剤は不水溶性。切り屑は切削の始めの食い付きのところで少し伸びるが、切削工具やワークピースに絡み付くことはない。
工作機械の仕様は? 現状の不水溶性切削油剤を水溶性に変更することは可能か?
工作機械は横型マシニングセンター。主軸出力22kW、最高回転数n=10,000min-1、BT50。切削油剤の変更は現状では不可。水溶性の切削油剤では、偶発的な切れ刃欠損が生じて、切削工具の信頼性が得られない。
生産加工を無人化した場合、注意を要するのは切り屑トラブルと切れ刃欠損トラブルである。後者のトラブルは前者に比べると発生頻度は極めて少ないが、発生したときの危険度は高い。前者の切り屑トラブルは、送り量を20%程度アップすることで解決するが、送り量を大きくすると、後者のトラブルの危険性が増す。
ドリルの切れ刃欠損が発生すると、どのように危険なのか?
工具摩耗の増大や切り屑の噛み込みその他の偶発的原因で、ドリル切れ刃が切削不能状態になると、切削熱が上昇し切れ刃部は灼熱化して真っ赤になる。ドリルはろう付式なので発熱すると、ろう層が軟化し溶融する。ろう座から切れ刃部の超硬合金が離脱し、ドリル先端が摩滅状態に変わる。
一定量のトルク増大で工作機械が自動的に停止するセンサーでも設置しないかぎり、工作機械の主軸出力が大きいので、主軸が過負荷状態になっても、回転運動やテーブル送り運動が停止しない。その結果、被削材とドリルシャンクの2つの鋼材が圧接状態で激しく発熱し火災が発生する。切削油剤が不水溶性であれば機内にある切削油剤の付着した切り屑や工作機械本体に引火する。更に、油槽にも延焼する危険性がある。