オーステナイト系ステンレス鋼とオーステナイト系ステンレス鋼の被覆アーク溶接
8A-8A-A

適用

この作業標準は、JIS Z 3040 「溶接施工方法の確認試験方法」の母材の区分(P番号)8A(オーステナイト系ステンレス鋼)と8Aを被覆アーク溶接法(溶接方法の区分:A)により溶接施工する時に適用する。

溶接材料

溶接棒は、JIS Z 3221 「ステンレス鋼被覆アーク溶接棒」に該当するものを使用する。

表1. 代表的鋼種に対する適用溶接棒(JIS Z 3221)
鋼種 SUS304 SUS304L SUS316 SUS316L SUS321 SUS347
SUS304 ES308
(D308)
ES308
(D308)
ES308
(D308)
ES308
(D308)
ES308
(D308)
ES308
(D308)
SUS304L ES308
(D308)
ES308L
(D308L)
ES308L
(D308L)
ES308L
(D308L)
ES308L
(D308L)
ES308L
(D308L)
SUS316 ES308
(D308)
ES308L
(D308L)
ES316
(D316)
ES316
(D316)
ES316
(D316)
ES316
(D316)
SUS316L ES308
(D308)
ES308L
(D308L)
ES316
(D316)
ES316L
(D316L)
ES316L
(D316L)
ES316L
(D316L)
SUS321 ES308
(D308)
ES308L
(D308L)
ES316
(D316)
ES316L
(D316L)
ES347
(D347)
ES347
(D347)
SUS347 ES308
(D308)
ES308L
(D308L)
ES316
(D316)
ES316L
(D316L)
ES347
(D347)
ES347
(D347)
  • 注1)鋼種は JIS G 4304熱間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯の記号(SUS)を記した。
  • JIS Z 3221が2008年に改正され、ステンレス鋼被覆アーク溶接棒を表す記号が「D」から「ES」に変わったため、表1に新しいJIS記号を併記した。()内は旧JISの記号である。
  • 表1以外のデータは、作成時の旧JIS記号のままになっているので注意のこと。

開先形状

  1. ステンレス鋼は、炭素鋼に比べて物理的性質(表2)が大きく異なるため、湯流れ等が悪く、一般的に開先は炭素鋼の標準値60度より広い80度が採用される。標準的な開先形状を図1に示すが、開先は狭いほど溶接量が少なくなるので、溶接品質が確保できれば、溶接能率の向上、溶接歪量の低減上から狭い方が利点が多い。したがって、開先形状は各社工夫されたものが活用されており、固定的なものではない。
  2. ステンレス鋼は、酸素アセチレンガス切断法(炭素鋼切断の主流)では切断が出来ない。したがって一般的には、プラズマアーク切断法・レーザ切断法・機械加工等により、切断や開先加工がなされる。
表2. ステンレス鋼と炭素鋼の物理的性質 (ステンレス鋼便覧第3版)
材料 密度
(常温)
g /cm3
比電気抵抗
(常温)
10-8Ωm
磁性 比熱
(0〜100℃)
(kJ/kg℃)
熱伝導率
(100℃)
(W/m℃)
縦弾性係数
(常温)
kN/mm2
線膨張係数
(0〜100℃)
(x 10-6/℃)
SUS3041) 7.93 72 0.50 16.3 193 17.3
SUS4102) 7.7 57 0.46 24.2 200 10.99
SUS4303) 7.7 60 0.46 26.0 200 10.5
SUS329J4L4) 7.80 88 0.46 16.3 196 10.5
SUS6305) 7.78 98 0.46 16.3 196 10.8
SS4006) 7.86 15 0.49 51.0 207 11
  • 1)オーステナイト系ステンレス鋼
  • 2)マルテンサイト系ステンレス鋼
  • 3)フェライト系ステンレス鋼
  • 4)二相(オーステナイト+フェライト)系ステンレス鋼
  • 5)析出硬化系ステンレス鋼
  • 6)炭素鋼

V開先(裏当てなし)

V開先(裏当てあり)

X開先(両面溶接)
図1 開先形状の一例

溶接姿勢

溶接は全ての姿勢で行うことができる。しかし、溶接性が良いのは下向き姿勢であるので、回転ジグ等を工夫してできるだけ下向きで溶接することが望ましい。

溶接準備

溶接電源・極性・推奨溶接電流値

溶接電源

被覆アーク溶接用の電源には、交流電源と直流電源がある。いずれの電源を使用するかは、溶接材料の特性によるので、溶接材料メーカの指示に従うこと。

極性

溶接電源が直流(DC)の場合、プラス(+)とマイナス(−)がある。一般的にプラスをホルダへ、マイナスを母材側に接続した逆極性(Electrode Positive:DC.EP)が推奨されている。これも溶接材料の特性によるものなので、いずれの極性を使用するかは、溶接材料メーカの指示に従うこと。

推奨溶接電流値

オーステナイト系ステンレス鋼溶接棒の推奨溶接電流値の一例を表3に示す。

オーステナイト系ステンレス鋼は、比電気抵抗(表2)が炭素鋼の約5倍と大きいため、使用電流値を炭素鋼溶接棒と同様に高くすると溶接棒が赤熱しアークが乱れ、溶接棒が最後まで使用できない状態になる。アークが乱れた時点で溶接を中断し、残棒を捨てれば溶接部の品質的悪影響は少ないが、経済的損失になる(捨てる溶接棒の長さが大きい)。

オーステナイト系ステンレス鋼溶接棒の推奨電流値を炭素鋼溶接棒と比較すると、棒径4mm(下向き)で約50A低い値になる。このため、炭素鋼の溶接に慣れた溶接士にはアークの吹き付けが弱く感じられ、教育を徹底しないと上限値を超えた電流値による施工になりやすく、注意が必要である。使用電流範囲は銘柄により異なるので、溶接材料メーカの指示に従うこと。

表3. オーステナイト系ステンレス鋼溶接棒の使用電流範囲の一例
溶接姿勢 棒径(mm)
2.6 3.2 4.0 5.0
下向 55-70A 80-110A 110-140A 150-180A
立向 50-60A 75-90A 105-130A -
上向 50-60A 75-90A 105-130A -
炭素鋼溶接棒(比較) - - 140-190A -

予熱およびパス間温度

予熱は行わない。パス間温度は150℃以下を原則とする。

オーステナイト系ステンレス鋼の溶接においては、溶接部が高温長時間に加熱されるほど、以下の問題が発生しやすくなる。

  • 溶接割れの発生(高温で割れる)
  • 耐食性の劣化(550-850℃でのCr炭化物の析出による鋭敏化)
  • 溶接変形の発生(温度上昇が大きいほど、変形が発生しやすい)

問題の発生を避けるために溶接部の温度上昇を抑える必要があるため、予熱は行わず、パス間温度もできるだけ低く抑える。

溶接上の注意

1. 溶接変形の防止

オーステナイト系ステンレス鋼は溶接によって変形を生じやすいので、十分拘束して溶接を行う等の事前の変形防止対策が必要である。

2. 運棒

運棒はストリンガービード法が望ましく、ウィービングを行う場合には溶接棒径の2.5倍以下とするのが一般的である。

3. クレータ割れ

クレータ割れが発生した場合は、割れをグラインダー等で除去後、次の溶接を行うことが望ましい。

清掃

多層溶接の場合は、前の層のスラグ及びスパッタを除去してから次の層を溶接する。 清掃に使用するワイヤブラシは、ステンレス鋼製の物を使用すること。

(炭素鋼製のワイヤブラシをステンレス鋼に使用すると、表面に鉄粉が付き、錆び発生の恐れがあるので使用しないこと。)

溶接欠陥の補修

溶接部に欠陥が生じた場合には、その原因を究明、対策を講じて、欠陥を除去後再溶接を行う。

溶接後熱処理

溶接完了後、熱処理が必要な場合(耐食性の改善、機械的性質の改善、溶接残留応力除去)には、目的により下記の処理がある。熱処理の詳細は、SAS801(ステンレス協会規格)ステンレス協会規格SASのページへによること。

溶接部の検査

ステンレス鋼溶接部の欠陥検査法として、下記の方法が採用されている。1は表面にある欠陥、2は内部欠陥の検査に活用されている。

(社)日本非破壊検査協会日本非破壊検査協会のウェブサイトへ

  1. JIS Z 2343 「非破壊試験―浸透探傷試験−」
  2. JIS Z 3106 「ステンレス鋼溶接継手の放射線透過試験方法」

溶接実施例

  1. 標準的な溶接条件によるSUS304溶接継手部のビード外観と機械的性質を図に示す。
  2. WPS(Welding Procedure Specification), PQR(Procedure Qualification Record)の一例を示す。

溶接技能者の資格

参考文献

オーステナイト系ステンレス鋼とオーステナイト系ステンレス鋼の被覆アーク溶接の作業標準 2003-04-10 (c)ものづくり先端技術研究センター 川嶋 巌

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溶接作業標準プログラム(管理番号:H15-TR0115)