第1回調査報告書(平成12年)
- はじめに
- この調査は、平成13年4月に独立行政法人化した産業技術総合研究所中国センターが、通商産業省工業技術院中国工業技術研究所時代の平成12年8月から9月にかけて、中国地域5県の金属切削加工企業を対象に、業務概要、抱える問題点、支援機関への要望等を調査したものである。
平成12年8月下旬に、西日本電信電話株式会社(NTT西日本)が発行しているタウンページ(職業別電話帳)の職業別分類の“金属切削加工業”に電話番号が記されている企業を中心とした1566社に調査票を郵送し、このうちの300社から、主に8月下旬から9月下旬にかけて有効回答を得た。回答していただいた企業の方々に深く感謝いたします。 - 調査結果概要
- 文章中での%数値のうちで特に断りのないものは、回答企業300社を100%とした百分率である。
なお、図3以外の図(棒グラフ)においては、企業規模による傾向の違いも検討できるように、回答企業数を従業員数別に9種類に色分けして表示した。
<1.回答企業の概要> |
調査結果
<1 回答企業の概要>
1.1 県別比率
広島県が47%(140社)、岡山県が23%(70社)、山口県が16%(47社)、島根県が8%(24社)、鳥取県が6%(19社)であった。
1.2 従業員数別比率
従業員が9人以下の企業は37%(114社)、100人以上の企業は17%(51社)であり、全体的傾向としては、従業員の少ない企業ほど回答数が多かった。
1.3 創業年代
明治が3%(9社)、大正が5%(16社)、昭和元〜20年が7%(22社)、昭和21〜40年が37%(110社)、昭和41〜63年が34%(103社)、平成が6%(17社)であった。
1.4 ホームページの有無
“ない”と回答した企業が49%(148社)であり、“ある”と回答した企業の25%(74社)の約2倍であった。なお、従業員が49人以下の企業においては、“ない”と回答した企業が“ある”と回答した企業よりも多かったが、従業員が50人以上の企業においては、“ある”と回答した企業が“ない”と回答した企業よりも多かった。
1.5 電子メールの有無
“ある”と回答した企業が55%(79社)であり、“ない”と回答した企業の22%(31社)の約2.5倍であった。なお、この比率を従業員数別にみると、従業員が9人以下の企業においては、“ない”と回答した企業が“ある”と回答した企業よりも多いか同数であったが、従業員が10人以上の企業においては、“ある”と回答した企業が“ない”と回答した企業よりも多かった。
<2 設問への回答>
2.1 回答企業の加工内容
問1 | 貴社が切削する部品はどの分野で使用されるものですか。該当番号に○印を付けてください。その他、の場合には具体的に記してください(問2以下も同様)。 (複数回答可) |
1.輸送用機械 2.一般・精密機械 3.鉄鋼・金属 4.電気・電子 5.土木・建設 6.化学 7.食品 8.繊維 9.紙・パルプ 10.その他( ) 11.不明 |
図6に集計結果を示す。“一般・精密機械”が最も多くて、全体の約2/3(193社)の企業がこの分野の部品を製造している。次いで“輸送用機械”の部品を約1/3(102社)の企業が製造しており、以下“鉄鋼・金属”、“電気・電子”、“土木・建設”、等の順であった。
問2 | 貴社はどの切削用工作機械を所有していますか。該当番号に○印を付けてください。(複数回答可) |
1.旋盤 2.フライス盤 3.マシニングセンタ 4.ボール盤 5.歯切り盤 6.専用自動盤 7.その他( ) |
図7に集計結果を示す。最も多くの企業が所有している工作機械は“旋盤”と“ボール盤”であり、旋盤は90%(270社)、ボール盤は88%(265社)の企業が所有している。次いで、“フライス盤”が80%(241社)、“マシニングセンタ”が61%(184社)の順である。
なお、フライス盤とマシニングセンタは同種の加工を行う工作機械である。少なくともどちらか一方を所有している企業の数は258社(86%)であり、旋盤またはボール盤の所有率に近い。
問3 | 貴社はどの切削を行っていますか。該当番号に○印を付けてください。(複数回答可) |
1.旋削 2.正面フライス切削 3.エンドミル切削 4.平削り 5.穴明け 6.中ぐり 7.歯切り 8.ねじ切り 9.その他( ) |
図8に集計結果を示す。回答の多かった順に、“穴明け”(90%、269社)、“旋削”(87%、260社)、“エンドミル切削”(79%、236社)、“正面フライス切削”(68%、203社)、“ねじ切り”(59%、178社)、“平削り”(54%、163社)、“中ぐり”(53%、159社)であった。
問4 | 貴社はどの材料を切削していますか。該当番号に○印を付けて下さい。 (複数回答可) |
1.炭素鋼 2.ステンレス鋼 3.工具鋼 4.その他の特殊鋼 5.鋳鉄 6.アルミ合金 7.銅合金 8.ニッケル合金 9.チタン合金 10.その他( ) |
図9に集計結果を示す。炭素鋼とステンレス鋼が最も多くて約80%(各々243社と234社)の企業が切削している。次いで、アルミ合金と鋳鉄を約60%(各々177社と169社)の企業が切削し、工具鋼と銅合金を50%弱(各々138社と133社)の企業が切削している。ニッケル合金は19%(57社)の企業で、チタン合金は15%(45社)の企業で切削されている。
問5−1 | 貴社が最も多く切削する工作物材種は何ですか。以下に記入してください。 |
(例:S45C、FC25インコネル718) |
図10に、記入された材種のうちの代表的なものを示す。
機械構造用炭素鋼(S**C)が最も多く、58%の企業(175社)が記入した。そのうちで最も多く記入された材種はS45Cであり、41%(123社)であった。次いでステンレス鋼(SUS)が多く、32%(95社)が記入した。そのうちで最も多く記入された材種はSUS304であり、21%(63社)であった。さらに、一般構造用圧延鋼材(SS***)、ねずみ鋳鉄(FC***)、アルミ合金、クロムモリブデン鋼(SCM***)、等の順であった。
問5−2 | その工作物の用途は何ですか。以下に記入してください。わからない場合 には、”不明”を○で囲って下さい。 |
(例:回転軸、金型、歯車) |
具体的な回答を多数いただいたが、自由記入であるために用語が不統一であった。あえて分類して、比較的多く挙げられたものをまとめたものが、図11である。それによると、軸の加工が最も多くて25%(74社)で加工されており、次いで金型が14%(43社)、軸受が7%(21社)、歯車が7%(20社)、ケースが6%(17社)、治具・治工具が4%(12社)、等の順であった。
問5−3 | その工作物の寸法はどのくらいですか。該当番号に○印を付けてください。 |
1)10mm未満 2)10〜100mm 3)100〜500mm 4)500〜1000mm 5)1000mm以上 |
図12に集計結果を示す。最も多い寸法は“100〜500mm”であり、59%(177社)の企業がこの範囲の寸法の工作物を最も多く切削している。次いで、50%(150社)の企業が“10〜100mm”の寸法の工作物を最も多く切削している。なお、“10mm未満”の小型工作物を最も多く切削している企業が16%(48社)あった。
問5−4 | その工作物に要求される形状精度はどのくらいですか。該当番号に○印を付けてください。 |
1)1ミクロン未満 2)1〜10ミクロン 3)10〜50ミクロン 4)50ミクロン以上 |
図13に集計結果を示す。最も多い値は“10〜50ミクロン”であり、68%(205社)の企業がこの範囲の要求精度の工作物を最も多く切削している。なお、要求精度が“1ミクロン未満”の部品を最も多く切削している企業が8%(25社)あった。
2.2 回答企業における加工技術上の問題点
問6−1 | 貴社では、寿命に至った切削工具の交換をどのような方法で行っていますか。該当番号に○印を付けてください。(複数回答可) |
1.作業者の判断による 2.自動式寿命判定による 3.所定切削数量での交換による 4.その他( ) |
図14に集計結果を示す。“作業者の判断による”工具交換が、他の方法よりもはるかに多くて、91%(274社)の企業がこの方法で工具交換している。“自動式寿命判定”を行っているのは11社(約4%)であった。
問6−2 | 前問で1.又は2.と回答された方にお聞きします。工具交換の基準は何ですか。該当番号に○印を付けて下さい。(複数回答可) | ||
1.切削面粗さ 2.形状精度 3.切屑形状 4.切削音 5.振動 6.切削力(トルク) 7.AE(超音波) 8.機械主軸モータ電流 9.工具損傷直接測定 10.その他( ) |
図15に集計結果を示す。回答の最も多かったのが“切削面粗さ”であり、83%(250社)の企業が基準としている。次いで、“形状精度”が63%(190社)、“切削音”が48%(145社)、“切屑形状”が47%(142社)、等の順であった。“切削力(トルク)”、“機械主軸モータ電流”、“AE(超音波)”、“工具損傷直接測定”は、基準としてはあまり使用されていない。
問6−3−1 | 適切な時期に工具交換できますか。該当番号に○印を付けてください。 | ||
1.十分にできる 2.まずまず 3.あまりできない 4.全くできない |
図16に集計結果を示す。“まずまず”と回答した企業が64%(194社)、“十分にできる”と回答した企業が30%(91社)であった。
問6−3−2 | できないことがある時は、どういう場合ですか。以下に記してください。 | ||
(例:工具に欠けが発生しても、切削力による自動判定がうまくできない。) |
問6−3−1に対して,“まずまず”、“十分にできる”との回答が多かったためか、無記入のものが多く、記入いただいたのは60社であった。その内容は、工具の欠け(又は、チッピング、破損、折損)に関するものが多かった。図17は、工具の欠け(又は、チッピング、破損、折損)に関するものを同内容の回答として分類して示したものである。半数強(31社)がこれに関するものであり、次いで作業者に関する問題点の指摘が12社からあった。
問7 | 問6関連以外で、貴社が困っている切削技術上の問題点は何ですか。該当番号に○印を付けてください。(複数回答可) | ||
1.切削面粗さ大 2.形状精度不良 3.振動発生 4.工具寿命短 5.切屑処理不良 6.切削能率低 7.切削費用高 8.油剤関連 9.NCプログラミング時間長 10.その他( ) |
図18に集計結果を示す。“工具寿命短”を挙げた企業が34%(103社)で最も多く、次いで“切削費用高”が25%(74社)、“切削能率低”が23%(68社)、“形状精度不良”が16%(49社)、“NCプログラミング時間長”が15%(46社)、等の順であった。
問8 | 問6と問7で回答された問題点の解決策として、どのような方法をお考えですか。該当番号に○印を付けてください。(複数回答可) | ||
1.自社解決 2.工具メーカ資料を参照 3.工作物メーカ資料を参照 4.技術雑誌・書籍を参照 5.親会社に相談 6.同業者に相談 7.県・市立工業(産業)技センター に相談 8.国立研究所に相談 9.大学・高専に相談 10.その他( ) |
図19に集計結果を示す。“自社解決”(61%、184社)及び“工具メーカ資料を参照”(56%、167社)が、他の回答よりも多かった。
これらに次いでは、“同業者に相談”という回答が多くて15%(46社)であった。
“同業者に相談”以外の外部への相談先としては、“親会社に相談”が8%(25社)、“県立・市立工業(産業)技術センターに相談”が6%(18社)、“大学・高専に相談”が0.7%(2社)、“国立研究所に相談”が0.3%(1社)の順であった。
問9−1 | 未経験の仕事が来た場合に適切な切削工具・切削条件等を調べられる、無料のインターネットホームページがあれば利用したいですか。該当番号に○印を付けてください。 | ||
1.したい 2.内容による 3.必要ない 4.インターネットを未使用なので不明 |
図20、21に集計結果を示す。“インターネットを未使用なので不明”と回答した企業が24%(75社)あったが、37%(111社)の企業が“したい”、28%(88社)の企業が“内容による”、8%(24社)の企業が“必要ない”と回答した。“インターネットを未使用なので不明”と回答した企業を除いた比率では、49%の企業が“したい”、39%の企業が“内容による”と回答していた。
問9−2 | 前問で、1.又は2.と回答された方にお聞きします。どの材料のどの切削法について、このようなホームページを作成して欲しいでしょうか。 | ||
(例:ステンレス鋼の小径ドリル穴明け) |
比較的多く記された材料を図22に示す。“ステンレス鋼”が最も多くて14%(43社)であり、次いで“アルミ合金”が4%(13社)、“ニッケル合金”と“チタン合金”が3%(10社)、“工具鋼”が3%(9社)、等の順であった。
比較的多く記された切削法を図23に示す。“穴明け”が最も多くて12%(37社)であり、次いで“エンドミル加工”が6%(17社)、“ネジ・タップ加工”が3%(9社)、“旋削”が3%(8社)、“フライス加工”が2%(7社)、等の順であった。 材料と切削法の組み合わせでは、“ステンレス鋼の穴明け”が最も多くて、6%(19社)であった。
2.3 外部機関による技術支援策
問10 | 貴社として、問8に示したような外部機関に支援して欲しい事柄は何でしょうか。該当番号に○印を付けてください。(複数回答可) | ||
1.技術講演会・講習会・展示会の開催 2.異業種交流会等の交流事業の開催 3.外部機関からの郵送・FAX・電子メール等による技術情報提供 (特に入手したい情報があれば記してください。: ) 4.貴社からの電話、FAX、電子メール等による技術相談への対応 5.技術アドバイザーの訪問による指導・相談 6.技術・製品開発に関する外部機関との共同研究 7.試作・試験・分析への対応 8.融資・補助金等の資金助成制度の拡充 9.そもそも、どこに何を問い合わせたらよいかを教えて欲しい 10.その他( ) |
図24に集計結果を示す。“技術講演会・講習会・展示会の開催”が最も多くて、34%(103社)であった。次いで、“貴社からの電話・FAX・電子メール等による技術相談への対応”が25%(74社)、“融資・補助金等の資金助成制度の拡充”が17%(52社)、“そもそも、どこに何を問い合わせたらよいかを教えて欲しい”が17%(50社)、“技術アドバイザーの訪問による指導・相談”及び“外部機関からの郵送・FAX・電子メール等による技術情報提供”が各15%(44社)、等の順であった。
<3 まとめ>
中国地域5県の金属切削企業を対象に、切削概要、切削技術上の問題点、外部からの技術支援策等に関するアンケート調査を行い、300社から回答を得た。主な回答内容は以下の通りである。
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1.切削概要
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・所有している工作機械は多い順に、旋盤、ボール盤、フライス盤、マシニングセンタ、等であった。
・行っている切削法は多い順に、穴明け、旋削、エンドミル切削、正面フライス切削、等であった。
・切削している材種は多い順に、炭素鋼、ステンレス鋼、アルミ合金、鋳鉄、等であった。
2.切削技術上の問題点
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・寿命に至った切削工具の交換法は、作業者の判断によるものが多く、自動式工具寿命判定法を使用している企業は少なかった。
・切削工具の交換はおおむね適切な時期に行われているが、工具に欠け(又は、チッピング、破損、折損)が発生することにより、うまくできない場合があるとの指摘が約10%の企業からあった。
・工具交換時期以外の切削技術上の問題点としては、工具寿命短、切削費用高、切削能率 低等の、工具の改良や切削方法の適切化で向上・改善できるものが多かった。
・切削技術上の問題点の解決は自社で図るという回答が多かった。
・未経験の仕事が来た場合に適切な切削工具及び切削条件等を調べることができる無料ホ ームページの利用希望企業の比率は、“したい”と“内容による”を合わせて約2/3であった。このホームページへのデータ掲載を希望する工作物は多い順に、ステンレス鋼、アルミ合金、ニッケル合金、チタン合金、工具鋼、等であり、同じく切削法は多い順に、穴明け、エンドミル切削、ネジ・タップ加工、旋削、フライス切削、等であった。
3.外部からの技術支援策等
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・外部機関に支援して欲しい施策は多い順に、“技術講演会・講習会・展示会技術講演会の開催”、“技術相談への対応”、“融資・補助金制度の拡充”、等であった。なお、“そもそも、どこに何を問い合わせたらよいかを教えて欲しい”という声が、従業員の少ない企業で多かった。