4.実験結果と考察
(1)工具損傷形態
図3にFC20切削時の工具損傷状態を示す。TiB2系セラミックスは300、400m/minの場合に激しい横逃げ面境界摩耗とクレータ摩耗を起こし、特に400m/minでは顕著である。逃げ面、すくい面への溶着も激しく特に逃げ面への溶着が大きい。TiCN系コーティングは200、300m/minにおいて境界摩耗が見られるがTiB2系セラミックスに比べるとはるかに小さい。溶着は逃げ画すくい面ともに起こっているが、この場合はすくい面への溶着が大きい。このことから両工具ともにFC20に対する親和性が大きいと考えることができる。TiCN系コーティングは、コーティング層が摩耗して母材の超硬合金で切削している様子がわかる。
走査型電子顕微鏡による観察ではTiB2系セラミックスにおいて400m/min場合、横逃げ面境界からすくい面に向かう大きなクラックが観察され、またすくい面上にもいくつかの小さなクラックが見られた。TiB2系セラミックスの急激な摩耗は、その抗折力が小さいためにクラックが生じやすく、クラックが小さな欠損を次々に起こしていくことによるものと考えられる。
(2)工具摩耗進行曲線
図4にFC20切削時のTiB2系セラミックスの逃げ面摩耗と境界摩耗の経過を示す。図中VBは逃げ面の平均摩耗、VBmaxは同最大摩耗、VB1は横逃げ面境界摩耗、VB2は前逃げ面境界摩耗である。逃げ面摩耗は、200m/min場合はいくぶん切削できるが、どの速度の場合も極端に寿命が短い。また境界摩耗も短時間で大きく発達し、特に400、300m/minの場合の横逃げ面境界摩耗は極端に大きい。TiB2系セラミックスはこのような高速での切削工具としては不適当である。
図5にFC20切削時のTiCN系コーティングの工具摩耗の経過を示す。図中摩耗部位の表わし方は図4と同じである。逃げ面摩耗は400m/min場合短時間で寿命にいたるが、300、200m/minでは長時間の切削に耐えうるものの、60分寿命を得る切削速度はさらに低速側にある。境界摩耗は切削初期に大きいが、のち大きく発達しない。400m/minにおいては境界摩耗は見られない。
(3)工具寿命曲線
図6工具寿命曲線を示す。
VB=0.2mmのときTiB2系セラミックスはVT0.49=280、TiCN系コーティングはVT0.27=440となる。TiB2系セラミックスはTiCN系コーティングにくらべて極端に短寿命であり、FC20の切削工具としては不適当である。
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