ま と め
◎合金工具鋼SKD11(焼入れ、焼もどし)

1.実験の目的

試作セラミックス(TiCN-30TiB2)と市販セラミックス(Al203-TiC系)の、合金工具鋼SKD11切削性能の検討。

2.被削材

合金工具鋼は炭素工具鋼の欠点を改良し、さらに耐摩耗性や不変形性などの特性を与える目的で種々の合金元素を添加したものである。
  冷間金型用工具鋼は耐摩耗性と熱処理に伴う変形や使用中の寸法の経時変化の少ないことが望まれる抜型、引き抜きダイス、転造用のダイスやローラーなどに使用される。表1に使用した合金工具鋼SKD11の化学成分と機械的性質を示す。

3.工具材

1に使用したセラミックス(TiCN-30TiB2)及び比較用セラミックス(Al203-TiC系)の成分と機械的性質を示す。
  硬度、坑折力共に市販のもののほうが高い。写真1に試作セラミックスと市販セラミックスの切削前と切削後を示す。

4.実験結果と考察

(1)工具損傷形態

1から試作セラミックス(TiCN-30TiB2)については1分以内ですべての切削速度で横逃げ面摩耗VB0.2に遠しており前、横逃げ面、クレーターいずれも欠損剥離が激しく刃先の様を呈していない。それに対し市販セラミックス(Al203-TiC系)は顕著な境界摩耗もなく、前者に比べて耐摩耗性、耐酸化性、耐拡散性に優れていると考えられる。

(2)工具摩耗進行曲線

3は比較用セラミックス(Al203-TiC系)の前・横逃げ面の工具摩耗の進行状態である。なおこの図には1分以内でVB=0.2に達している試作セラミックスは載せていない。
  図から比較セラミックスは30分に達してもVB0.2に至らないものがほとんどでわずかにテストNO.2において切削速度110m/minにおいて28分くらいで0.2に達している。又工具寿命曲線の図についてはVB=0.1におけるものであるがテストNO.1とテストNO.2は再現性があるようである。

(3)切削仕上げ面

4に比較用セラミックス(Al203-TiC系)でSKD11を切削した時の表面粗さの変化をしめす。テストNO.1とテストNO.2では10分に至るまでの経緯はちがうが、以降は大体同じような粗さを示し全体としては理論値1.6μmにはおよばない。

(4)切りくず

2に試作、比較チップでSKD11を切削したときの切削開始時と切削終了時の切りくずの様子を示す。開始時と終了時では長さに変わりは見られないが、カール半径に違いが見られる。これはクレーター摩耗によるチップブレーカーのような働きによるものと思われる。

5.結論

(1)試作セラミックス(TiCN-30TiB2)によるSKD11の切削ではVB=0.2に到達するのは総ての切削速度で1分以内とであった。

(2)比較用セラミックス(Al203-TiC系)は安定した正常摩耗の進行を示しSKD11の切削には、別に問題はないと考えられる。