ま と め
◎ニッケル基耐熱合金インコネル600 (固溶化処理)

1.実験の目的

CBN、セラミックス、サーメット等の新素材工具の高度難削材料に対する切削性能について検討する。

2.被削材

インコネル600は、Niをべ一スとした合金で、76%Ni-16%Cr-8%Feの組成をもつ析出硬化型の合金である。耐蝕性、高温強度に優れ900  以上の高温まで酸化に耐えるが、硫化性雰囲気中では816  以上では使用できないものの、この優れた性質が炉室材、ソルトポット、航空機の排気マニホールド、高温スプリング等に使われ、またミルク製造業、各種化学工業で用いられている。
  被削性は高度難加工材に属し、切削困難な材料である。
  表1に使用したインコネル600の化学成分と機械的性質を示す。
  

3.工具材

1に使用した工具材の成分、機械的性質、チャンファー形状を示す。
  サーメットは抗折力が他の4工具材に比べてかなり大きいが、硬さはかなり低い。またCBNは抗折力は最小であるが、硬さは最大である。図1に切削前の工具のすくい面の状態を示す。

4.実験結果と考察

(1)工具損傷状態

2にインコネル600切削時の工具損傷状態を示す。
  5種類の工具のどの切削速度の場合も、逃げ面またはすくい面に損傷または大きな摩耗を生じている。またいくつかの条件ではすくい面への激しい溶着がみられる。全ての条件中最長切削時間は3minであるが、これらは正常摩耗により寿命に達したのではなくて、横逃げ面境界摩耗または境界部の欠損により被削材にバリが発生し、このため切削困難となるため寿命となったものである。

 (a)CBN

150m/minでは前逃げ面境界部の欠損、100、50m/minでは横逃げ面境界部が欠損している。逃げ面の摩耗は正常摩耗である。すくい面摩耗は通常の摩耗ではなくて、チッピングが連続して生じた欠損である。すくい面の欠損は切削速度が低いほど大きい。すくい面内には溶着が起こっているため正確ではないが、その深さは150、100、50m/minに対し、20、17、91μm以上である。

 (b)TiN-TaN系サーメット

50m/minにおいて横逃げ面境界部に大きな欠損がみられ、この境界部欠損の奥にはクラックが生じているのが確認された。25m/minでは横切れ刃が大きく欠損している。逃げ面の摩耗は正常摩耗である。
  すくい面は逃げ面の境界から摩耗がすくい面内に大きく進行しており、50、25m/minではすくい面の欠損が生じている。すくい面の欠損は切削速度の低い方が大きい。まだその深さは100、50、25m/minに対し3、40、38μm以上である。

 (c)Al2O3系セラミックス

逃げ面の摩耗は正常摩耗である。いずれの切削速度においても横逃げ面境界部の欠損がかなり大きい。また前逃げ面境界部も欠損しており、これは切削速度が低いほど大きく、特に25m/minの場合は2mmにも達する。すくい面には溶着が生じ、チッピングも起こっている。

 (d) Al2O3-TiC系セラミックス

逃げ面の摩耗は正常摩耗であるが横逃げ面境界摩耗がかなり大きく、また前逃げ面の境界摩耗、欠損も大きい。すくい面も損傷し特に50m/minでは大きな欠損を生じている。すくい面への溶着はかなり激しく、25m/minではすくいの摩耗部分が完全に埋った。すくい面の摩耗深さは100、50m/minに対し100、90μmであり25m/minではさらに深いと思われる。

 (e)Si3N4系セラミックス

逃げ面の摩耗は正常摩耗である。いずれの切削速度においても横逃げ面の境界摩耗が大きいか、境界部の欠損を生じている。すくい面摩耗は100m/minの場合は正常摩耗であるが、50,25m/minにおいてはチッピングおよびこれより大きい損傷を生じている。切削速度の低い方が損傷は大きい。クレータの摩耗深さは100,50,25m/minに対し20,12,44μmであった。

このように5種類の工具材の全ての条件で激しい横逃げ面境界摩耗、あるいは特にその境界部の大きな欠損が生じ寿命に至った。またすくい面は横前の両境界摩耗部から境界摩耗が大きく進行した。一方すくい面へは激しい溶着が起った。
  このような逃げ面境界部、すくい面の欠損は、インコネル600が高温強度が高く靭性の高い材料であるため工具材に溶着しやすく、またTiN-TaN系サーメット以外は抗折力がかなり小さいため、この溶着物が切り屑とともに持ち去られるときに工具材の一部まで持ち去るためである。
  溶着物の一部は被削材に付着し仕上げ面が悪化した。
  この実験では抗折力の最も高いTiN-TaN系サーメットが100m/minにおいて3minの切削に耐え、最も良い結果が得られている。
  5種類の工具について、工具寿命をその損傷状態からみると、切削速度の高い方がより長いと考えられる。

(2)工具摩耗進行曲線

3は横逃げ面の状況を示している。逃げ面摩耗のみについて見てみると、摩耗はかなり速く進行している。5種類の工具のなかで最も硬さの高いCBNが最も耐摩耗性があり、以下硬さが低くなると摩耗が大きくなっている。境界摩耗はCBNの150m/minとTiN-TAN系サーメットの100m/minの場合が正常の摩耗を示しているが、他は欠損等損傷が大きい。
  4は前逃げ面の状況を示している。摩耗の進行状況は、横逃げ面の進行状況と同様な傾向を示している。
  逃げ面摩耗の進行状況は図3、4のとおりであるが、硬さは低いが靱性の大きいTiN-TaN系サーメットの100m/minの場合は、摩耗は大きいものの安定した切削を続けることができる。

(3)切削仕上げ面

5に、インコネル600の仕上げ面の表面粗さを示している。CNBの150m/minと、TiN-TaN系サーメットの100m/minの場合は、比較的良い仕上げ面が得られており、2〜5μm程度である。
  前述したように、工具の切れ刃部およびすくい面には溶着物が多く発生するため、仕上げ面には溶着物の巻き込みによって生じだキズが多く発生する。図6は、Al203系セラミックスの100m/min、2min時の例である。

5.結論

高度難削材料であるニッケル基耐熱合金インコネル600を乾式軽切削しだが、インコネル600は乾式切削のもとでは非常に切削困難な材料であった。切削試験の結果次のような結論を得た。

(1)硬い工具材は、溶着物の脱落時に逃げ面境界部やすくい面の欠損を起こしやすく、切削不能になりこのため寿命になる。工具寿命は極端に短い。

(2)最も良い結果が得られたのは、硬さは低いが靭性の大きいTiN-TaN系サーメットであり、特に100m/minの場合が最良であった。

(3)仕上げ面には溶着物巻き込みによるキズが多く発生し、良好な仕上げ面は得にくい。