ま と め
◎機械構造用炭素鋼S45C(焼ならし)

1.実験の目的

試作セラミックス(TiCN-30TiB2系、TiN-30TiB2)の、機械構造用炭素鋼S45C(焼ならし)に対する高速切削性能の検討。

2.被削材

機械構造用炭素鋼S45Cは一般に、中炭素鋼(0.30〜0.5%炭素)と呼ばれ、焼入れ、焼戻しを行うことにより、強靱性が増大するので、車軸、クランク軸、ロッドなど比較的に重要な大形の機械構造用部品へ広く用いられている。また、S45Cは高周波焼入れによって表面硬化させ、耐摩耗性、あるいは疲れ強さに対する要求の高い機械部品に使用できる。表1に使用した機械構造用炭素鋼S45C(焼ならし)の化学成分と機械的性質を示す。

3.工具材

1に使用したセラミックス(TiCN-30TiB2系、TiN-30TiB2)および比較用工具材セラミックス(Al203系)の成分と機械的性質を示す。各工具材とも抗折力に関しては差はないものの、硬度は比較用セラミックスが一番高い。図1に切削前の工具すくい面の状態を示す。

4.実験結果と考察

(1)工具損傷形態

2はS45C切削時の工具損傷状態を示す。いずれの切削工具も、切削速度200m/min〜400m/minにかけて全ての切削速度領域において横逃げ面および前逃げ面とも切刃線稜にチッピングの発生が少なく切削初期から切削終了時まで正常摩耗形態を示す。一方、掬い面については切削速度が高くなるほど掬い面摩耗は明確に現れる。特に、比較用セラミックス(Al203)は顕著である。逃げ面摩耗量はすべての切削速度に対して、大きい順に列挙すると比較用セラミックス、試作セラミックス(TiN-30TiB2)、試作セラミックス(TiCN-30TiB2)となる。以上のことから試作セラミックスの中でもTiCN-30TiB2系は耐摩粍性、耐酸化性に優れた工具材種といえる。図3は工具掬い面摩耗部における付着元素の分布を電子線マイクロアナライザで観察した結果の一例を示す。組成像およびX線像で白く見える部分がFe層を示しており、比較用セラミックス工具に比らべて試作セラミックス工具の方は波状または、全面にわたり付着していることがわかる。このことから試作セラミックスはFeとの親和性が比較用セラミックスよりも高い工具といえる。

(2)工具摩耗進行曲線

4はS45C切削時の横逃げ面および前逃げ面の工具摩耗の進行状態を示す。切削速度400m/minの高速で切削したときの、横逃げ面摩耗量を比較すると、比較用セラミックス(Al203)は切削時間5minですでに0.2mmを超えているのに対して、試作セラミックス(TiN-30TiB2)は切削時間30minで0.15mm程度の摩耗を示し、試作セラミックス(TiCN-30TiB2)においては、切削時間30minでも0.10mm未満と極めて少ない摩耗である。

(3)切削仕上げ面

図5にS45Cの切削仕上げ面粗さを示す。三者とも粗さに差は見られない。また、理論粗さ値3.5μmにたいしていずれの切削速度においても、仕上げ面粗さは大きい。

5.結論

(1)試作セラミックス(TiCN-30TiB2系)は高速切削においても、耐摩耗性がよく優れた切削性能を示す。

(2)比較用セラミックス(Al203系)は高速切削での工具寿命が極めて短い。適正切削速度は200m/min以下にあると推定される。