ま と め
◎ステンレス鋼SUS304(固溶化処理)

1.実験の目的

試作セラミックス工具(TiB2-30MoSi2)および(Si3N4-7Al203-25SiC系)の、ステンレス鋼SUS304固溶化処理材に対する切削性能の検討を行う。

2.被削材

被削材はステンレス鋼SUS304固溶化処理材(事例5-7「まとめ」参照)で、その化学成分と機械的性質を表1に示す。

3.工具材

1に使用した試作セラミックス工具(TiB2-30MoSi2)、(Si3N4-7Al203-25SiC系、(サイアロン))。および比較用工具コーティング工具(Al203)の成分と機械的性質を示す。図1に切削前の工具すくい面の状態を示す。なお、コーティング工具(Al203系)のチャンファーはR型で、他のセラミックス工具とは刃先の状態が異なっている。

4.実験結果と考察

(1)工具損傷形態

2-1および図2-2はSUS304を1分間切削した時の各工具の損傷状態を示す。
  コーティング工具(Al203)は、切削速度の全速度域において、すくい面の切りくず擦過痕がかなり深くついている。一方、逃げ面の摩耗は1分間の切削にしてはかなり多く、均一なアブレッシブ摩耗のようである。
  セラミックス工具(TiB2-30MoSi2)は、切削速度80m/minのときに横切れ刃境界部にかなり大きな欠損が認められる。また欠損がすくい面にも広がっている。120および180m/minでは、横切れ刃部境界部の欠損とその欠損部やすくい面に、切りくずの一部がかなり付着している。この試作工具には、被削材SUS304が付着しやすいようである。
  セラミックス工具(Si3N4-7A1203-25SiC系)は、切削速度80、120m/minにおいて、わずか1分間の切削にもかかわらず、逃げ面摩耗が大きく現われており、特に120m/minではすくい面に深いクレータ摩耗も発生している。なお、180m/minでは切削時間55秒で刃先部が大きく欠損した。
  切削速度120m/minで、1min切削したときの、工具の逃げ面摩耗量は、コーティング工具(Al203)0.15mm、セラミックス工具(TiB2-30MoSi2)0.08mm、セラミックス工具(Si3N4-7Al203-25SiC系)は0.65mmであった。

(2)工具摩耗

セラミックス工具(Al203系)の逃げ面摩耗は、1分間の切削にしては大きいので1分以降は実験を中止した。

(3)切削仕上げ面

3にSUS304切削時の、切削開始直後の仕上面の写真と断面曲線を示す。コーティング工具(Al203)の切削仕上面は、全ての速度域でほとんど変わらない。これに対して、試作工具の切削仕上面には工具の損傷の影響が現われており、一定ではない。

(4)切りくず

採取せず。

(5)切削抵抗

測定せず。

5.結論

(1)コーティング工具(Al203系)は、すくい面に切りくずの擦過痕が着き易く、また工具の逃げ面摩耗もかなり多い。

(2)セラミックス工具(TiB
2-30MoSi2)は、工具の逃げ面摩耗はそれほど大きくはないが、横切れ刃部の境界部に小規模の欠損が発生する。また、刃先に、被削材SUS304が付着しやすいので、SUS304の工具としては材質的に問題がある。

(3)セラミックス工具(Si
3N4-7Al203-25SiC系)は、逃げ面摩耗およびクレータ摩耗ともに極めて顕著で、SUS304の工具としては適していない。